これから精子凍結保存について説明をします。
同意していただく前に、精子凍結保存の内容を、危険性や利点も含めて十分に理解していただくことが前提になりますが、このページに記載されていることをよくお読みいただき、 口頭でもじかに説明を聞き、納得した上で同意書へ署名してください。
精子凍結保存の歴史・背景
ヒト精子の凍結保存は、欧米では1953年から、本邦では1958年より実施されており、40年以上の歴史のある医療技術です。
精子に原因のある男性不妊は、全不妊原因のほぼ半数を占めその大半は原因不明です。
女性の不妊治療は排卵誘発剤や体外受精により飛躍的な向上がみられますが、 男性不妊においては、薬物療法の有効性はあまり期待できません。
そこで、現在ある精子をいかに有効に利用するかということが治療の中心であり、人工授精や体外受精が行われてきました。
一方、凍結・解凍は、一般にその対象となる細胞の機能低下 (例えば、精子の運動率が悪くなるなど) が問題となるため、精子の状態が不良である場合の精子凍結は当初難しいとされていました。
しかし、精子凍結保存の技術向上に伴い、精子の機能を大きく損ねることなく凍結保存、および解凍が可能になってきました。
以下に示された対象となる不妊症夫婦の精子凍結保存は妊娠率向上に寄与するものであり、現代の不妊治療には欠かせないものとなっています。
目的・対象
当産婦人科不妊外来において通院中の患者さんで、以下の条件を満たす方を対象とし、採取された精子の凍結保存を行います。
精子凍結保存および解凍精子の利用は、対象となる男性の拳児の目的以外には使いません。従って対象外の患者や研究目的には一切使用されません。
A) 不妊治療
1) 乏精子症
2) 精子無力症
3) 精液採取困難な症例
(逆行性射精、閉塞性無精子症、脊髄損傷により射精障害等)
4) あなたの不在時 (自費診療となります)
5) あなたの造精機能に重大な影響を及ぼすと考えられる医療行為が必要なとき
B) 妊孕性保存
1・2) 乏精子症・精子無力症については、数回分の射精精液を凍結備蓄することにより、生殖補助医療において必要充分な精子数が得られるようになります。
3) 逆行性射精、閉塞性無精子症、脊髄損傷による射精障害など精液採取困難な症例では、頻回に精子が摂取できないため、摂取された精子を効率よく保存して何回かに分けて使うことで、1回の精子摂取あたりの妊娠率を向上させることができます。
4) 社会構造の変化に伴い、夫が船員や海外出張などで長期不在になることで授精のタイミングを逸してしまう場合が多くなっていますが、このような場合には各周期の排卵を無駄にせずにすみます。
5) 夫が何らかの疾病のために放射線治療や抗癌剤の投与を受けるときなど、造精機能に重大な影響を及ぼす(精子の状態が悪化する)ことが予測された時、その医療行為を行う前に精子を凍結保存しておけば、後に造精機能が低下した場合にそれを利用することができます。
精子凍結保存の方法
1) 夫婦における精子凍結保存のインフォームドコンセントの取得
2) 夫の精液採取
3) 精子の洗浄濃縮
4) 精子凍結保護剤の添加および精子凍結
5) 液体窒素タンクにて保管
6) 精子解凍および精子凍結保護剤の除去
7) 不妊治療にて夫の精子の利用
精子凍結保存の利点・危険性
対象となる不妊症夫婦の精子凍結保存は、精子を有効活用することにより全体の妊娠率向上に寄与するものであり、現代の不妊治療には欠かせないものです。
精子の凍結保存は、不妊治療の一環として行われるため、対象となる夫婦およびその家族にはなんらの不利益および危険は生じません。
ただし、解凍精子の状態は凍結前と同等かそれより低下することはあっても、改善することはありません。
プライバシー
精子凍結保存に関する個人の名前、病歴、その他のプライバシーが公表されることはありません。
対象外の患者や研究目的には一切使用されません。
凍結保存された精子は、責任者の管理のもとで厳重に管理されます。
凍結保存精子の管理・破棄
長期保存の可能性があるため、患者さまご夫婦と連絡のとれる状態を維持する必要があります。
従って、
・住所変更の場合
・戸籍上の夫婦でなくなった場合
・夫婦いずれかが死亡した場合
・妻が閉経となった場合
には必ず当院に連絡をしてください。
1年に1度契約更新のため、必ず来院し手続きをしていただきます。
この際に、凍結精子の保存の意思を尋ねますので、
・凍結精子保存継続願い
・凍結精子破棄願い
のいずれかを必ずご本人に署名して頂きます。
自費診療の場合凍結保存料として11000円、保存継続希望の場合、1年間の保存のための液体窒素費用および管理料として、11000円を申し受けます。
また、次の場合には凍結精子の破棄を行います。
・住所変更したにもかかわらず当院に連絡をしなかった場合
(当院からの郵便物が転居先不明のため戻ってしまう場合)
・戸籍上の夫婦でなくなった場合
・夫婦いずれかが死亡した場合
・契約更新を行わなかった場合
・凍結精子破棄願いを提出した場合
・閉経となった場合
・夫婦のいずれかが書面により凍結精子の破棄を求めた場合
・保存期間が30年に達した場合
当院が自然災害(地震・台風・洪水 竜巻など)や不慮の事故(火災・戦争・核爆弾など) に見舞われた場合には、凍結精子がダメージを受けることがあります。