お知らせ

新型コロナウイルス治療薬の安全性 速報版 Q&A

国立成育医療研究センター妊娠と薬情報センターセンター長
国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター主任副センター長
                              村島 温子

Q 妊婦さんに薬を投与することはできますか?

A 妊娠中に限らず、薬を使用すべきか否かはその効果(ベネフィット)と副作用(リスク)を秤にかけて判断し ます。妊娠中のリスクの主なものとして催奇形性と胎児毒性があります。前者は妊娠初期(特に 11 週くら いまで)、後者は胎盤が形成される妊娠中期以降に注意が必要です。

Q 妊娠中の安全性を判断する際には何を参考にすべきでしょうか?

A 公的なものでは添付文書ということになります。添付文書は薬が上市される際に、動物実験や臨床試験 結果などをもとに作成されなければなりません。妊婦を対象にした臨床試験はできないため、「妊婦の項」 は動物実験をもとに書かれることになります。しかし、動物実験結果と人での結果に乖離がある薬剤が 少なくないことはこれまでの経験でわかっています。人での使用経験による疫学研究結果がある場合は、 その方が根拠として優先されます。

Q 妊婦さんへ薬を処方する際にはどのように説明すればよいでしょうか?

A 患者さんは「妊娠中にこれを服用しても大丈夫ですか?」と聞いてきます。その際には「お薬を使用してい なくても流産や先天異常はみられます。流産の自然発生率はおおよそ 15%、先天異常の自然発生率は 2-3%と言われています。このお薬はこれらの頻度が上がるとは言われていません。すなわち、この薬を 使用するあなたと、使用しない他の妊婦さんと、これらが発生する可能性は同じということです」と答える とよいでしょう。

Q 現在、新型コロナウイルス感染症の候補薬となっている薬は妊婦さんに投与できますか?

A 妊娠中であっても病気の重大性、薬の効果、安全性を考慮して判断することに変わりはありません。現 在の候補薬のうち、アビガンは催奇形性のリスクがありますので、妊婦さん(特に妊娠初期の)には使用 を控えてください。 なお、これらの薬は本症に適応となっておりませんし、有効性についても結論は出ていません。従いまし て、各医療機関の規則に則って、患者の同意のもと投与されるべきです。そうしない場合には自費診療 であっても有害事象に関する責任が生じます。

・妊娠と薬情報センターでは候補薬の妊娠中の安全性について情報提供しています。 https://www.ncchd.go.jp/kusuri/news_med/covid.html

・個々の症例について相談が必要な場合は妊娠と薬情報センターをご紹介ください。 https://www.ncchd.go.jp/kusuri/

Q 男性が候補薬を使用した場合の胎児への影響はどうでしょうか?

A これまで、男性側の使用する薬剤が原因で流産や先天異常発生が増えたという報告はありませんので、 特に注意することはないと考えます。催奇形性が疑われているアビガンⓇの添付文書には、精液中へ移 行するので内服開始から内服終了後 7 日間は避妊をするように書かれていますので、そのようにお伝え ください。しかし、この期間における性交渉で妊娠したとしても、冒頭に述べた理由から、リスクが上昇す るとは考えにくいです。